Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

雨続きの、でも涼しい週末の読書は

ペーター・ヴォールレーベンの

『樹木たちの知られざる生活』

 

行政官の立場からの森林保護に限界を感じ

そのキャリアを手放して

フリーランスの営林者となったから

この本を書けたし、出版もできたという

著者のまなざしを通して触れる樹木たちの世界からは

認識を新たにすることが多々あり

またいつか広葉樹の森を訪れるような際には

随分違った印象を覚えるかもしれない。

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大きな親木のもと

少ない光の中でゆっくり育つことも

ブナの若木たちが将来

大きく立派に、力強くなっていくための

いわば教育であるという。

かといって

ただ厳しい状態に置かれるだけではなく

根を通じて親木から若木へと

糖分をはじめとした栄養が与えられるそうだ。

植林された木は最高でも80年から120年で伐採され加工されるが、この数字に惑わされてはならない。野生の樹木は100歳前後でも鉛筆ほどの太さで、背の高さも人間程度しかない。ゆっくりと生長するおかげで内部の細胞がとても細かく、空気をほとんど含まない。おかげで柔軟性が高く、嵐がきても折れにくい。抵抗力も強いので、若い木が菌類に感染することはほとんどない。少しぐらい傷がついても皮がすぐにふさいでしまうので腐らない。優れた教育、こそが長生きの秘訣なのだ。

そのかわりに、子どもたちはずっと我慢を強いられる。少なく見積もっても80歳を超えていると思われる私の森のブナの若木たちは、樹齢およそ200年の母親の下に立っている。人間の年齢に置き換えると、彼らはおよそ40歳。この"若造たち、が義務教育を終えて独り立ちするまでにはあと200年ほどかかるだろう。だが、子どもたちは一方的に我慢を強いられているわけではない。根を通じて母親が子どもたちとつながり、糖分をはじめとした栄養を与えるからだ。

ペーター・ヴォールレーベン
『樹木たちの知られざる生活』
ハヤカワ・ノンフィクション文庫

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