Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

心地よい雨音と雪の静けさが聴覚を満たした土曜日。
その雨に洗われた朝の樹々を見上げると、今年最初の桜が開花していた。

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公園の片隅に一本の杉の樹がある。ヒマラヤ杉だろうか。
普段はひっそりとそこに佇んでいる風情なのに、その朝はその細い葉先に溜まった雫が朝陽を受けてキラキラと輝き、まるで無数のラメを纏っているかのようで思わずカメラを向けたが、画像に残すことは叶わないようだった。

けれども、それがむしろそのときしか出逢えない美、特別な瞬間という手触りを残した。

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いつもそこにあった樹。
でも、それはなんとなく風景の一部として視界に入っていただけで、「観ていた」訳ではなかったのだろう。

この樹はこんなに柔らかで優しげな佇まいだっただろうか
そんな印象を覚えながら、見ている様で見ていない事にまたひとつ気付かされた朝だった。

特別なものは何もない、だからこそ、特別なのだという逆説に、わたしたちの日々のかたちはささえられていると思う。人生は完成でなく、断片からなる。『人生の特別な一瞬』に書きとどめたかったのは、断片のむこうにある明るさというか、ひろがりだった。

長田 弘 『人生の特別な一瞬』あとがき

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