Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

冬至が近付くにつれ
見上げる空も、そして
空気…というより気配が一層澄み渡って
ふとした眺めに
どこか神々しいくらいの美しさという印象を
覚えたりもするこの頃。

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まだいくつか個人レッスンや自習会の予定はあるが
先日、毎月定例の出張講座は2020年のレッスン納めで
仕事のブログの方で少し触れさせて戴いたが
参加者の皆様から素敵なクリスマス・プレゼントを頂戴したりもして
この1年の締めくくりに
とても和やかであたたかいお気持ちに包まれながら
そのひと時を過ごさせて戴いた。

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今までにも一部引用させて戴いたことがあったかもしれないが
この年末、今一度私の好きな詩の一編を
載せさせていただこうと思う。

 

うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。

風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
きらめく川辺の光りはうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。
太い枝を空いっぱいにひろげる
晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。
冬がくるまえの、曇り日の、
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
過ぎてゆく季節はうつくしいと。
きれいに老いてゆく人の姿はうつくしいと。

一体、ニュースとよばれる日々の破片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。


 
長田 弘 『世界はうつくしいと』

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