
ドガ ダンス デッサン
2021/11/24
岩波文庫からポール・ヴァレリーの
『ドガ ダンス デッサン』が出版された。
これまでにも清水徹氏や吉田健一氏の訳によるものなどが出版されてきたが、こちらは幻のヴォラール版の意図にできる限り沿う形で再構成されたそうで、その経緯についてのお話もかなり長い訳者あとがきに記されていて興味深い。
が、ダンス好き人間としては、文庫本で51点ものドガのデッサンを眺め、また持ち歩くことも容易であるという点が何より嬉しい。
文庫とはいえカラー版で紙質も良い。
早速、厚手のビニールのカバーをつけて保護しながら移動の行き帰りの電車の中で楽しんだり、
学生さんと一緒にデッサンを眺めつつの会話も楽しんでいる。
以下のテキストのヴァレリーの表現に触れ
以前、
人は、歩くときは蹠行性
走るときは趾行性
ポアントで踊るときは蹄行性
(シューズが蹄の役割)
という話をしたことを思い出してくれたり、
ドガが動物の動きもよく研究した人だったことを知って、
その時代の価値観に縛られることなく
動きを貪欲に捉えようとしてきたから
ああしてダンサーを描くことができたのかもしれないと
ドガという画家についてのイメージも
彼女の中で奥行きを増したようだ。
〈馬〉は つま先で歩く。四つの蹄が馬を支えている。どんな動物でも、純血種の競走馬ほど、バレエのプルミエールに、コール・ド ・ バレエ(群舞)の踊り手たちのなかにいるエトワールに似ているものはない。
純血馬は完璧な平衡をたもち、まるで馬のうえに乗っている騎手の手によって吊りさげられているかのように見え、さんさんと降りそそぐ陽光のなかを小刻みに歩いてゆく。ドガはその姿を一行の詩句で描きだした。
ポール・ヴァレリー著 塚本昌則訳『ドガ ダンス デッサン』岩波文庫
「馬、ダンス、そして写真」より
ドガは、マイブリッジ少佐のはじめた連続写真を利用して、この高貴な動物が走っているときの真の姿を研究した最初の人間のひとりである。そもそも彼は、芸術家たちが写真を軽蔑し、写真を利用しているとあえて認めるのをためらっていた時代に、写真というものを好み、高く評価していた。実に見事な写真をいろいろ撮った。引き伸ばした写真を一枚私にくれたことがあり、私はそれを大切に保管している。
ポール・ヴァレリー著 塚本昌則訳『ドガ ダンス デッサン』岩波文庫
「馬、ダンス、そして写真」より
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