
タイ文学を読む
2021/11/09
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督と
俳優の西島秀俊氏の対談をアーカイヴで観ながら
そこに「記憶」「音」というキーワードが繰り返されたり
映像の中で、監督の背景に
チェンマイの情緒ある家屋と緑に触れたせいだろうか
チェンマイの時間の記憶の断片が
次々とコラージュする様に思い出されて
無性にチェンマイが恋しくなった。
そんな旅心を持て余しそうな時
タイ文学を読む。
近年、プラープダー・ユン氏の著作が
いくつか出版されているものの
邦訳出版されているタイ文学作品は決して多くはないが
ありがたいことに大同生命国際文化基金のサイトには
アジアの現代文芸電子図書館があり
現在、11冊ほどの電子化された書籍をダウンロードする事ができる。
現代タイを代表する作家6人の作家の短編を集めた
カノックポン・ソンソムパン 『滝』は
ノーラー(โนราห์/南タイ伝統劇の踊り手)がモチーフの
ミステリアスな作品だが
夢と記憶と現実が交錯する様な心理描写も
滝や川や森など自然の描写も美しく
幻想的なシーンを想像する楽しみもある。
そして、おそらく次の一節が
この作品の主題ではないかと思うが
40歳で早逝した作家の
その問いかけが木霊し続けるような読後感だ。
昔から築き上げられてきた価値が、私たちのすぐそばにあるのだと思い至った時、私は心が震えた。それはいまでは、それを懐かしむ気分になった時にお金を出して買うことができるほど身近になり、私たちが束の間身につけて満足する飾りものになってしまった。そしてそう遠くないうちに、私たちはそれを、もはやしまっておく価値のないものと同じように捨て去ってしまうだろう。私たちがそれに対して抱いていた感覚が実際はどのようなものであったかを、自ら体験してみようと考える人すらまったくいなくなるかもしれない。
それとも、私たちは本当に破滅の時代へ向かう入り口に来てしまったのだろうか?
現代タイのポストモダン短編集
カノックポン・ソンソムパン 『滝』よりกนกพงศ์ สงสมพันธุ์ ”นำ้ตก”
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