Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

『未来のルーシー』の中でも西田幾多郎氏の話題が随所に出てくるが、私もまたかつてその著書『絶対矛盾的自己同一』を読んでみたものの、お手上げのまま放置してあった。

けれども、論考的な本ではない『西田幾多郎歌集』に収録されていた平沢哲雄氏の著書に寄せた序文の一節だけは、ああこういう感じだとすうっと流れ込んできた鮮やかな記憶がある。

我々の心の底には知識以上の世界がある、我々の心の底は理智の錘(おもり)の達することの出来ない深底である。此処には概念的に限定せられた物と云うものもなければ、我と云う色のない、すべてが一つの純なる活動である。固定せる形というものはないが、無限の形を創造する無形の形がある。固定せる色というものはないが、無限の色を創造する無色の色がある。この世界に於て一々が創造であり、純なる活動である。

『西田幾多郎歌集』上田 薫 編 『直観芸術論』序より (岩波文庫)

西田氏は京都大学を退職後鎌倉に住まわれ、七里ガ浜にはその歌碑があり、「七里ガ浜夕日漂う波の上に 伊豆の山々果てし知らずも」という歌が刻まれている。

その七里ガ浜の地と石碑のある場所からの眺めが私にとっては夢を描き、また手放しもした時間と共にあった場所でありつつ、巡りめぐって今の志の縁ともなっていることと重なり合って、西田哲学をわからないままに放置していたくせに、でもそのわからないままをずっと懐に抱えてきているような勝手な近しさを覚えてもいる。

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雪が積もり始め、根と土と雪、そして花びらの描く瞬間の美に息をのむ朝。

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