小脳と言語
2025/11/30
だいぶ前になるが、
「ネアンデルタール人のほうがホモ・サピエンスより小脳が小さいことを発見した」というニュースを見た記憶はあるものの、
その時はサラッと読み流して終わってしまっていた事に
改めて関心を向けるきっかけを与えてくれる本との出合いがあった。
『ホモ・サピエンス繁栄の鍵は小脳 ~小脳と言語~』という
170頁ほどの本だが、
「小脳は大脳のブースター」という考察や
「無意識的思考と小脳」というトピックに心惹かれた。

コンパクトにまとめられた小脳の概要から始まり
人類の進化と言語の起源や発達との関係などなど
言語聴覚士の著者ならではの視点からの考察が大変興味深く、
近年の様々な研究に関しての文献情報も豊富で
とても参考になった。
が、1番印象に残ったのは第5章
「ホモ・サピエンスの過去・現在・未来」
私自身の備忘録にその章から一部だけ引用させて戴きたいと思う。
言語は、自然を文化・文明に変える力があることから、ヒトを取り巻く自然は変容し、ヒトは完全に他の動物と別次元の存在になった。動物の生物的欲求は、ヒトでは無限の文化的欲望に変化する(丸山1984)。言語を持ったヒトは欲望を限りなく増幅させ、その欲望を満たすために技術革新をしている。言語が生み出す幻想の世界にヒトは生きることになる。新鮮な驚きを持って迎えられた新しいものは、時間とともに陳腐なもの、あたりまえのものになり、ヒトの欲望は限りなく新しいものを求め、決して満足することがない。言語の物語や虚構を創る力が、集団を結束させ、企業、国家、宗教を生み、経済競争、戦争を引き起こしている。強い影響力を持つ言語は、他人を騙すだけではなく、自分も騙されるという事態を引き起こす。ヒトは、自分たちが言葉を使っていると思っているが、実は、ヒトは言葉に使われているのかもしれない。言語はヒトが作り出したものでありながら、ヒトを超越する存在になってしまったと言える。つまり言語の時間空間を越えて多様な事柄を差異化し、コミュニケーションできる記号としての言語の長所は、実体から切り離された虚構・幻想を生み出すという短所を必然的に持っていると考えられる。
田村 至 『ホモ・サピエンス繁栄の鍵は小脳 ~小脳と言語~』東京図書出版


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