Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

父の回想でよく出てくるのは大学生時代の話。

戦前・戦中・戦後を生きて、

その頃が最も楽しく過ごした時期なのだろう。

 

大学では英語部とヨット部に所属し

石原裕次郎氏にあったこともあるという話は

なんとなく知ってはいたが

父の昔語りの熱心な傾聴者ではない私との間では

話も進まなかったのだろうと思う。

 

が、最近少しその先を聴く機会があった。

 

英会話部の夏の合宿で山中湖の山荘に滞在していた時

湖畔の艇庫前の桟橋からヨットを借りて

ひとり湖に繰り出したのだそうだ。

 

しばらくすると、天候が急変し小嵐になったそうだが

日頃ヨット部で鍛えられていた父にとっては

絶好の機会と感じられ、単独帆走だったから

もしも沈没したら泳いで帰るくらいの気持ちだったと。

 

私の中で、父は決して体育会系のイメージではなく

むしろ語学好きの文系人間という感じだったから

その大胆さはちょっと意外だったが

東京大空襲を生き延びた世代は

やはりいざとなると腹が据わるタフさがあるようだ。

 

無事桟橋に戻ると体格の良い男性が寄ってきて

「先輩、お上手ですね!日を改めて自宅近くの逗子湾で特訓してください。」

と声をかけてくれたのが、石原裕次郎氏だったそうだ。

 

折しも石原慎太郎氏の著書『真夏の太陽』の発売前で

映画化が先行するタイミングだったらしく

脇役としてデビューすることになっていた彼は

女優1人を乗せてでは海で自信がないと言うお話で

後日、ワンデー・プライベートレッスンとなったとのこと。

 

ヨットマンとしても著名な裕次郎氏にも

そんな時代があったのかと思うと同時に

物怖じせず朗らかに教えを請う

裕次郎氏の青年時代の姿が

目に浮かぶようだった。

 

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つい先日、母が父のシャツを選ぶ際に

「小柄な割には、胸囲が大きいのよねえ。

それに合わせると袖が長くなっちゃって。」

とぼやいていたのを思い出したが

それも若かりし頃のスポーツの片鱗

身体に刻まれた父の歴史なのかもしれない。

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