Baby Steps

ゆっくりと歩む日々の眺めと言の葉

あの神経科学の分厚い教科書が思い浮かぶくらい著名な神経学者エリック・R・カンデル氏。

その神経科学の大家が、自然科学と芸術、そして人文科学の多分野を統合する試みとして『芸術・無意識・脳―精神の深淵へ:世紀末ウィーンから現代まで』と、この『なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門―』といった芸術に関わる本を書いている。

 

前者もいつか読みたい本だが、青土社から出ているこの本の表紙に用いられてるのが、モンドリアンのコンポジションシリーズの中でも私の最も好きなNo.IVで、それに誘われるように思わず手に取ってしまった一冊。

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あの赤青黄の作品に行き着く前、過渡期の微妙な色彩と線が生み出す世界が何とも言えず心地よい。

 

その何とも言えず…が、カンデル氏の眼差しにかかると、

 

アーティストは一般に、還元主義的アプローチをさまざまな目的で用いている。具象的要素を還元することで、フォルム、線、他、光などの、作品の基本コンポーネントを分離して知覚できるようにする。かくして分離されたコンポーネントは、複雑なイメージでは可能ではないようなあり方で、鑑賞者の想像力のさまざまな側面に働きかける。それによって鑑賞者は、作品の持つ意外な関係や、おそらくはアートと世界の知覚の新たな結びつき、さらには芸術作品と記憶から喚び起こされた過去の経験の新たな結びつきを知覚するよう促されるのだ。アートにおける還元主義的アプローチは、スピリチュアルな反応を鑑賞者に引き起こす力さえ持っている。

という風に言語化されることによって、ああそうか…鑑賞するとか、解釈するとか受け身な関わり方だけではなく、アートにしてもダンスにしても、自分の中にある何かが能動的に関与していける余地のより多くある芸術が好きなんだと改めて気付かされたりもするから面白い。

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そして本棚を見渡すと、例えば『身体知性』『神経美学: 美と芸術の脳科学』、『損傷したシステムはいかに創発・再生するか』とか、科学と芸術、西洋と東洋、哲学とリハビリなど「間を行き交う知」の領域の本が多いこと(笑)

 

でも、神経学的アプローチを学び始めた事で、それらの本を再読し再発見する楽しみもまた広がった。

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実のところ、脳科学研究における主たる前進は、心の科学である心理学が脳の科学である神経科学に接合された、一九七〇年代に起こった科学の統合によってなし遂げられた。そしてこの統合は、「私たちはいかに知覚し、学習し、記憶するのか?」「情動、共感、意識の本質は何か?」など、私たち自身に関する一連の問いに科学者が取り組むことを可能にする、新たな心の生物学として結実したのである。この新たな心の科学は、人間を人間たらしめているものに関する理解を深めるだけでなく、脳科学と、芸術をはじめとする他の知の分野の意味ある対話を可能にしてくれるはずだ。

科学は、より徹底した客観性、自然界の諸事象のより正確な記述へと導いてくれる。科学的分析は感覚経験の解釈の方法の一つとして芸術作品の知覚を探究することで、脳が芸術作品をいかに知覚しそれに反応するのかを原理的に説明し、また、この経験が周囲の世界に関する日常的な知覚をいかに超越するのかを示す洞察を与えてくれる。この新たな心の生物学は、脳科学から芸術やその他の知の領域に至る架け橋を築くことで、人間自身に関する理解を深めることを目指している。この試みが成功すれば、芸術作品に対する私たちの反応や、おそらくは芸術作品がいかに創造されるのかについて、よりよく理解できるようになるだろう。

エリック・R・カンデル『なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門―』15頁 青土社より

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